甲賀の村の中に「いちいの観音さん」として知られる「櫟野寺」さんが見えてきます。
随筆家の白洲正子さんが「かくれ里」の中に書いたお寺としてご存知の方もおられるかもしれませんね。
「いちい」とは何か?って言いますと、常緑針葉樹で別名はアララギという木の名前らしいです。
昔、天台宗(てんだいしゅう)を開いた最澄(さいちょう)さんが、この地に木を探しにやってこられたとのこと。
比叡山とかでお寺のお堂等を建てるには立派な木が必要でこの甲賀の地は木の産地として知られていたんですね。
地名として残っている杣(そま)という字は木へんに山と書くことから奈良や京の都にも豊富な木を切って送っていたんでしょう。
その最澄さんが、この地で見かけた「いちい」の木に十一面観音さんを彫られ、その仏像をご本尊として開山されたお寺がこちらの櫟野寺(らくやじ)さんとのことです。
お堂の周囲には広い駐車場があり4~50台ぐらいは停められそう・・、観光バスでも来れるようになってます。
両脇に石仏と石灯籠が並んだ正面から、大きな赤提灯のぶら下がる仁王様のおられる山門をくぐります。
境内に入ると左手に鐘楼といちいの木、右手奥には寺務所があります。
本堂は正面ですが、その少し右手前に相撲の土俵があります。
普通、神社で良く見かける土俵がお寺にあると少し奇異な感じもしますが、昔は神仏習合でお寺を守護する鎮守社もあったんでしょうね。
なので、その名残で土俵もあるのでしょう。
本堂内の外陣(がいじん)(=普通の人が自由に立ち入れるスペース)でお賽銭を入れ、ご本尊さんに礼拝。
内陣(=ご本尊が安置されている聖なる空間、場所)へ入るには800円の拝観料を払う必要があったので、一旦寺務所に立ち寄って支払いを済ませお寺の方に従ってお堂の奥へ入らせて頂きました。
木造の座像としては日本一の大きさを誇る十一面観音さん。
左手に水瓶を、右手に数珠をお持ちです。
観音さんは菩薩なので飾りも多く身に着けておられます。
頭部と体は一本の木でつくられており、手と足は組み合わされて後付られてるようですね。
こういう造りを一木造(いちぼくづくり)と言う呼び方をされるそうです。(一木で造るからと言って、体全部を一本の木で削って造るのではないとのことです。あくまで頭と胴体だけを一本の木でつくることです)。
さて、さすがは内陣!
数十体の仏像がご本尊を取り囲むように壁に沿って安置されています。
しかもほとんどが平安時代の作とのことで、この村で長年に渡って大切に守られてきたことがわかります。
仲でも毘沙門天さんは鈴鹿あたりに出没していた荒くれ者どもを平定した坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)という平安期の武将の御分身として彫られた像とのことです。
お隣の村である土山に坂上田村麻呂を祀った「田村神社」がありますが、こちらの櫟野寺で観音さんに祈られてから荒くれどもの成敗に向かわれたようです。
他に、薬師如来さんの像も安置され、人の気配のほどんどない由緒深いお寺で静かに仏像と対面できる時間は贅沢なひとときでした。
こちらの十一面観音さんは重要文化財のようですが、国宝級であると言っても良いと思いました。
ただ、正確な製作者が不明、あるいは詳しい資料等が無いためにおそらく国宝指定されてないだけだろうと思います。
尚、普段は十一面観音さんは秘仏として非公開です。
ただ、ゴールデンウィーク中は春の公開として最後の期間となりますので、是非甲賀に来られた際にはお立ち寄りされることをおススメしたいです。
秋にも公開される時期があるとのことなので、春が無理なら秋に訪ねられるもいいですね!
コメント